村上宗隆を全打席敬遠すべきか
村上宗隆を全打席敬遠すべきかをOPSの観点から考察します。
OPSの定義
OPSとは長打率と出塁率の和で表されるセイバーメトリクスです。
簡単のため打撃結果として安打(二塁打・三塁打・本塁打を含む)・四球・凡退のみを考えることとします。さらに、打率、長打率、四球率をそれぞれ 、 、 とおきます。このとき、出塁率は となるので、OPSは以下の式で定義されます。
OPSの問題点
上の定義式(*)はOPSの本来の定義とは少し異なるところがあります。本来、四球率がちょうど1となるとき、つまり、打数が0になるときには長打率が定義できないのでOPSも定義できないはずです。(*)の定義式はの範囲では通常のOPSを表しており、ではとしたときの極限の値をOPSの定義として採用していることになります。
これは一見自然な拡張ですが、 となっており、全打席敬遠されたときのOPSが敬遠されなかった場合に期待できる長打率に依存しておりやや不自然です。また、
となっているので、打率がちょうど1のとき以外は全打席敬遠するべきではないという結論になり面白くもありません。
いずれにせよ、村上のような尋常ではない強打者に対して、全打席敬遠という非常識な戦略を考える際にOPSの定義をそのまま用いるのはよくなさそうです。
modified OPS
OPSの問題点は打席数に占める打数の割合()が小さくなったときに相変わらず長打率の影響を大きく受けることにあります。これを改善するためにパラメータ を導入し、modified OPSを以下のように定義します。
日本語で書くと次のようになります。
という範囲は若干恣意的ですが、評価関数の満たすべき公理を適当に定めてあげれば正当化できるはずです。また、modified OPSと通常のOPSの間には以下の関係があります。
解くべき問題とその答え
問題設定は次のように書けます。
解答は次のようになります。-OPSの による2階微分は( の範囲で)
となるので、-OPSは について上に凸な関数となっています。( を固定した場合には で連続であることに注意。)求めたいのは最小値だったので、範囲の両端を比較して小さい方を採用すれば良いです。 のときの -OPSを計算すると
となるので、 つまり全打席敬遠のときに-OPSが最小となる条件は です。
結論:村上宗隆を全打席敬遠すべきか
以上の議論より、全打席敬遠という戦略を採用する条件は「打率と長打率の和が1以上」となります。村上が5打席連続本塁打(の4,5本目)を放った中日戦の前の成績を確認すると
打率:.316
長打率:.699
となるので、その和は1.015となり、わずかながら1を上回ります。したがって、「村上宗隆は全打席敬遠すべき」という結論になります。
おまけ:過去の打者について
昨年のセ・パ両リーグの「打率+長打率」上位3人は以下の通りで、1.000を超えている打者はいません。
セ・リーグ:鈴木誠也(0.956)牧秀悟(0.848)村上宗隆(0.844)
パ・リーグ:吉田正尚(0.902)杉本裕太郎(0.853)柳田 悠岐(0.841)
過去には王貞治やバレンティンなどが1.000を超えてシーズンを終了しているようです。すべてのデータは確認できていませんが、1973年に王貞治が記録した1.110(打率 .355 長打率 .755)が歴代最高なのではないかと思います。
@noimi_kyoproさんから指摘してもらいましたが、1985年には落合博満が0.367+0.763=1.130を、1986年にはバースが0.389+0.777=1.166を記録しているそうです。
多分落合の 1985 の 打率 .367 長打率 .763 の和 1.130 が最大な気がします(?)
— のいみ (@noimi_kyopro) 2022年8月2日
バースの 1986 の .389 + .777 = 1.166 の方が高かったです…
— のいみ (@noimi_kyopro) 2022年8月2日